食品加工業の財務診断事例

コロナで資金繰りに悩んでいる中小企業は多いですが、金融機関との交渉が苦手で問題を先送りにしているケースがあります。度が過ぎると考える余裕をなくし経営の舵取りを誤ってしまいます。本事例は、財務面を中心に経営診断を行い、資金繰り改善のための経営改善策を提案した事例です。

目次

会社の状況

企業情報

業種食品製造加工業
業歴約50年
従業員数約10名
売上高約2億

業況

 当社は、漬物屋として創業後、無添加加工食品メーカーとして佃煮や総菜などを製造し全国の百貨店へ流通網を拡大をしました。独自の製法から「無添加の手作りジャム」のパイオニアとして、大手ネット販売業者と契約し新たな販路を獲得し、量産化のため工場を建設しました。しかし、この20年で競合が多数参入し模倣品が多数出回り売上が減少。工場の設備投資負債が重くのしかかる中、新型コロナウィルスの打撃を受けました。借入金が増えるなかで、経営者は現在の経営状況を見つめ直し、資金繰りを安定したいと悩んでいます。

財務診断の内容

財務諸表、経営管理資料を元に、経営者の考え方や将来の希望を中心に以下を確認しました。

  • 社長の想いや生い立ち
  • これまでの改善策、今後考えている改善策
  • 申告書10期分、試算表、原価管理データ、販売先別データ
  • WebサイトとSNS確認、店舗・工場視察

経営悪化の原因(窮境要因)

 ひと言で表現すると窮境要因は、「利益を意識した経営ができなかった」ことにあります。財務診断をする中で、以下の事象が確認できました。

  • 慢性的な収益力の低さ
  • ネット販売の収益率が著しく低い
  • ものづくり目線での商品開発
  • 原価管理ができていない
  • 事業収益力を超える過大な設備投資

それは申告書、部門別収支から見ても明らかでした。特に新商品であるジャムの販売を始めて以降、主要取引先である百貨店や大手ネット販売業者との契約内容は厳しいものがありました。その打開策として自社通販サイト構築、新商品開発に取組みましたが、「ものづくり目線」でのマーケティングを行っていたので、商品の魅力が消費者に伝わらず売上には繋がっていませんでした。経営陣は現場を回すことで精一杯で、経営管理帳票などは整備されていない状況でもありました。

コンサルタントはここに着目しました

  • 農産物の一次加工からの商品化までの支援が得意
  • 量産化ができる生産体制
  • 自社通販サイトを保有

提案内容

生産体制が整っているため委託生産加工として生き残っていくことは可能である判断しました。ですがそのためには返済条件の見直しを行い資金繰り負担を減らすことが必要でした。そこで以下をご提案しました。

  • 返済猶予のための経営改善計画書策定
  • 既存取引先の価格交渉
  • 部門別原価管理帳票の整備と運用
  • 委託生産加工に特化した業態転換

 当社はこれまで「弱みを改善する策」を行い続けていました。しかし、資金が枯渇し経営体力が衰えている状況では、新しい取組みを行っても上手くはいきません。そこで「強みを活かして伸ばす策」に絞ったを提案しました。当社は「ものづくりの会社」として農産物の一次加工から商品化・量産化まで一貫した仕組みを保有し、実績もあります。この武器を活かし収益力向上を図ることが最善と考えました。また、金融機関からの支援を受けやすくするためにも、原価管理や資金繰り管理などの管理帳票の作成は経営者の責任でしっかりとやっていただくよう助言しました。

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