新型コロナウィルスで経営難に陥った企業がたくさんありました。特に飲食業への影響は大きく、コロナ後も消費税、材料費高騰、人材不足の影響で未だ厳しい状況が続いています。そのような中、自社の”こだわり”を貫き、顧客満足を追求した結果、わずか1年足らずで経営改善に至った企業があります。
当時の経営状況
2006年に創業、18年目となる喫茶店です。店主夫婦とその母親の3人で運営をしています。地域に根付き経営を続けてきました。しかしコロナ後売上が回復せず、資金繰りが厳しくなっていました。色々と取組みをやってはいるものの、何故か数字に繋がらない、このままでは経営を続けられないのではないかと危惧し相談に来られました。
店舗について~逆張りのサービス~
当店は一般的な飲食店サービスに対し逆張りの方針をとっています。

①ルールを守らない客はお断り
「大人贅沢な時間と空間を提供」するため、来店客にはルールを設けています。
ルールやエチケットを守らない客は入店お断り、店内滞在中でも注意をして帰っていただくこともあります。創業以来、経営がいかなる状況であろうとも、この姿勢は変えていません。これは長年通っていただいているお客様のために「居場所」を提供することに強いこだわりがあります。
②メニュー種類の多さ
メニュー総数は約100、全て手作りで提供されています。メニュー表は分厚いアルバムになっています。各ページ丁寧に文字を入力、1mmもズレないレイアウト、写真の取り方も研究しています。料理名も工夫されていて、読んでいて楽しくなります。
普通ならデザインソフトや業者に頼みますが、「顧客に料理を選ぶ楽しみやワクワクを提供したい」との想いで、敢えて手間のかかるやり方をしています。

③店内装飾や備品も全て手作り
創業時、店舗の内装・外装は地元の工務店と協力しゼロから作り上げました。「大人贅沢な時間と空間を提供」するため、随所にこだわりが感じられます。店内に置かれている食器は店主の目利きで調達し、希望されるお客様には販売もしております。また箸袋やノベルティのデザイン、1つ1つ丁寧に包装をしています。



④値下げはしない
創業以来一度も値下げをしていません。「価格以上の価値を提供すれば、顧客は必ずついてくる」というのが店主の考え方です。顧客に価値があるものと選んで頂くための取り組みを考え、実行していくことに労力を惜しみません。店内の雰囲気作りはさることながら、盛り付ける食器、新メニュー開発、メニュー名の付け方など細部にまで気を配っています。
コンサルタントはここに着目
店舗のこれまでの歩み、店主の考え、顧客の状況などをお聞きし以下のように整理をしました。
ポイントは顧客との対話を通じて視野を広げることだと判断しました。
- 業歴が長く地元では知名度がある
- 店主は飲食店経営に精通しており、独自の経営理論と具体的な改善策を持っている
- 10年以上通ってくれる常連客がいる
- チーズケーキなどスイーツは人気商品である
- 店舗コンセプトを守るために、顧客との対話を遠慮している
- 店舗や自分達を客観的に見る習慣がなく、視野の狭まりを感じる
アドバイスをしたこと
顧客との距離を縮めてみる
お話しを聞いていると、顧客はお店や店舗スタッフに憧れに近い好感を持っていると感じました。しかし店主側はそれに気づいていない(自信がない)様子です。「自分の考える経営がこれで良いのか?」その答えは必ず現場にあり、店の売上を支えてくれる顧客に聞いてみることが確実です。そこで直接顧客に聞いてみることを助言しました。最初は世間話からでも構いません、これまで厨房に引きこもっていた店主にフロアへ出て、顧客と接することを助言しました。
顧客とのコミュニケーション手段を作る
店主が顧客へ話かけると、顧客の反応は予想以上に大きく、とても嬉しそうで、感謝の気持ちを伝えてくる方がたくさんいることがわかりました。そこで、何か共通のコミュニケーションツールを用意すること検討をしてもらいました。
具体的な改善の取り組み
みんなのノート(熊民帳)
顧客とのコミュニケーションツールとして「みんなのノート(交換日記のようなノート)」を店内に設置しました。学習ノートではなく、革のカバーがついている重厚なノートです。流行りのSNSを利用せず「手書き」にこだわりました。お客様が書く時に思いを伝えやすくできるように、カラフルなペンやシールなどを添えてみました。そうすると、たくさんのお客様が書いてくれるようになり、半年ほどで3冊目に突入しています。店主は1人1人に丁寧に返事を書いています。またそれを見たお客様が嬉しくて返事をする。他のお客様がそのやりとりを見てコメントを書き込む。まさに「コミュニケーションの数珠繋ぎ」が生まれます。店舗で1度も会ったことがないお客様同士の繋がりも生まれていきました。


固定客に名前をつけ心の繋がりを持つ
お客様に「熊民(くまみん)」と名付けました。韓国のアイドルグループがファンに”名前”を付けていることから発想を得ました。すでに通い詰めている常連客がいることがわかっていましたが、強い信頼関係を気築くための策が必要と思われました。何か特別な物を提供するのではなく、お客様との心の繋がりが保てる方法を考えていただきました。
毎月販促を実施
クリスマスやお正月だけでなく、毎月何か理由を設けてイベントを実施するよう助言しました。お金をかけて販促をする必要はありません。狙いは、お客様との接点を増やし、売上を安定させることです。また店舗からの情報発信がより円滑に進められるように、LINE公式アカウントを取入れるよう助言しました。 本来店主はSNSを取り入れるのはことは控えていましたが、熊民はLINEの利用比率が高いので、取り入れることになりました。
値上げを実施
販促策を続けることで、顧客との関係に手ごたえを覚えるようになりました。一方で、売上は回復していますが頭打ちになることも見えてきました。そこでついに値上げに踏み切りました。お客様の反応はどうなるのか、お店から離れてしまわないか…と。その心配は大きく裏切られました。お客様の足は途絶ええることはなく、むしろ「もっと値段を上げても構わない」とまで言われたそうです。
改善の効果
売上昨年対比で120%アップ、一昨年対比では140%アップ!
初めてお会いしてから3カ月後に始めて月商が過去最高記録を更新しました。1日の売上も2カ月ごとに記録更新していきました。天候や季節要因などに左右されることがなく、直近6カ月は安定した売上を確保できるようになりました。特に6月の周年祭は、昨年対比160%と大成功に終わりました。店舗オリジナルグッズを求めて、たくさんのお客様が来店し、客単価もアップし、お客様もお店側も大満足のイベントなりました。

LINE登録者が一気に100→600名へ増加
店主はSNSを積極的には活用しない方針でフォロワー数も気にしていませんでした。ですが当店の顧客はLINE利用者が多いので、LINE公式アカウント取入れました。売上上昇と比例し一気に友達数が増えていったことには驚きです。
提携(コラボ)の依頼が増加
当店のチーズケーキは人気商品です。常連客や地元業者からオリジナルケーキ開発の依頼が次々と舞い込んでいます。他にも異業種とのコラボなど、これまでの飲食店経営ノウハウを活かし、店舗の外に向けた新たなビジネスへ繋がっています。

経営改善が成功した理由
信念を曲げずに”逆張り”を貫いた
世の中がデジタル化や効率化の流行りの手法を取り入れる中、その流れに逆行することはリスクもあり大変勇気のいることだと思います。店主は独自の経営理論を持っておりブレることなく貫きました。1つ1つの取り組みを丁寧に続け積み上げていくことで、その店舗にしか出せない独特の世界観が作り上げられることに気付かされました。
お店の進むべき方向をお客様から学んだ
店主はお客様との対話を通じて、お店の存在価値に気付いたそうです。それは「人と人を繋ぐ場である」ということ。ある時常連客から、「ケーキを自宅で食べると美味しくない、お店で食べるから美味しい」と言われたそうです。店主が守り抜いてきた「こだわり」がお客様にとっていかに大切で無くてはならないことなのかを再認識でき、自分のやってきた経営に自信が持てるようになったそうです。
お客様の声
自分の進むべき道に迷いはない、この喜びをたくさんの人に伝える架け橋になりたい。
店舗情報
店舗名 | 珈琲 木熊家(きくまや) |
住 所 | 明石市松の内2-5-2 松ノ内ビル1F |
収容人数 | カウンター14席 |
営業時間 | 11:00~23:00 |
@cafekikumaya |
